なぜ喉が痛かったり、声が出ないくなるの?
「声枯れ」や「声が出ない」といった症状は、誰しも一度は経験したことがあるかもしれません。風邪を引いた後や長時間の会話・カラオケの後などに、一時的に声がかすれたり出にくくなったりすることは珍しくありません。
声は、喉の奥にある「声帯」という部分の振動によって作られます。声帯は2枚の薄い筋肉の膜で構成されており、呼吸と共に空気が通るときに振動して音を生じます。何らかの原因でこの声帯が炎症を起こしたり、過度に使われたりすると、腫れや乾燥が生じて振動がスムーズに行われなくなり、声が枯れる、出ない、掠れるといった症状が現れます。
主な原因には以下のようなものがあります。
•風邪や喉の炎症(咽喉炎、喉頭炎)
•声の使いすぎ(長時間の会話、歌唱、営業など)
•乾燥した環境やエアコンの影響
•喫煙やアルコールの影響
•アレルギーや逆流性食道炎による喉の刺激
•ストレスや自律神経の乱れによる喉の筋肉の緊張
ほとんどは一過性のもので、数日から1週間程度で回復することが多いですが、慢性的に続く場合や声がまったく出なくなった場合は、声帯ポリープ、声帯結節、喉頭の腫瘍、神経麻痺などの可能性も考えられます。
東洋医学的考え
東洋医学では、声は「気(き)」と「津液(しんえき)」の働きによって支えられていると考えます。気は生命エネルギーであり、津液は体内の潤いを指します。声が出にくい、枯れるという症状は、主にこの二つのバランスの乱れと関係しています。
1. 「肺」と「喉」の関係
東洋医学では、「肺は声を主る」といわれます。肺は呼吸を司る臓であり、その機能が低下すると、喉の潤いが失われ声がかすれる原因になります。乾燥した空気や過度な発声によって肺の陰液が不足すると、「肺陰虚」という状態になり、喉の乾燥・声のかすれ・乾いた咳などが出やすくなります。
2. 「肝」と「気の巡り」
感情の抑圧やストレスで気の流れが滞ると、「肝気鬱結」という状態になり、喉の筋肉が硬直し、声が詰まるように出にくくなることがあります。特に緊張やプレッシャーの場面で声が出にくくなる「心因性失声」などは、この肝の働きと深く関係しています。
3. 「腎」と生命エネルギー
東洋医学では「腎は精を蔵し、声に通じる」とされ、腎の力が弱ると声が細く力のないものになります。慢性疲労や加齢による腎虚は、声の衰えや長引く嗄声の一因になることがあります。
4. 「熱」と「痰」
風邪の後に喉が痛み、声が枯れるのは「風熱」が喉に侵入した状態です。また、慢性的な痰の絡みや喉の詰まり感がある場合は「痰湿」と呼ばれ、体内の水分代謝が滞っていることが原因とされます。
このように、東洋医学では「声枯れ」といっても単一の原因ではなく、「肺・肝・腎・熱・痰」などの状態を総合的に判断して治療方針を立てます。
鍼灸の効果
鍼灸治療は、喉そのものへの直接的な刺激だけでなく、声の調整に関わる全身のバランスを整えることを目的とします。
1. 血流と代謝の改善
喉周囲の筋肉や声帯を支える血流を促進し、炎症の鎮静を助けます。血流が良くなることで、声帯の修復が早まり、乾燥や炎症によるダメージを軽減します。
2. 自律神経の調整
声を出す筋肉(喉頭筋)は自律神経の支配を受けています。ストレスや緊張によって交感神経が優位になると、筋肉が過剰に緊張し声が出にくくなります。鍼灸は副交感神経を優位にし、リラックスした状態へ導くことで、喉の緊張を和らげます。
3. 免疫と抗炎症作用
鍼灸刺激は体の自然治癒力を高め、免疫機能を活性化します。風邪やウイルス性喉頭炎の回復を早め、再発予防にもつながります。
4. 精神的リラックス
声を使う職業(教師、歌手、営業職など)では、ストレスやプレッシャーが声の不調に影響することが多くあります。鍼灸による心身のリラックス効果は、メンタル面の安定をもたらし、心因性の声枯れにも有効です。
最後に
「声枯れ」「声が出ない」という症状は、単に喉の使いすぎや風邪の後遺症だけではなく、体全体のバランスの乱れやストレス、自律神経の不調などが関係している場合も多くあります。
東洋医学の視点では、喉だけでなく「肺・肝・腎・気血津液」の働きを整えることで、根本的な改善を目指します。鍼灸はそのための有効な手段であり、声の仕事をされる方や、慢性的に喉の不調を抱える方にとって、身体全体のメンテナンス法としてもおすすめできます。
症状が軽い段階で早めにケアを行うことで、声の回復は格段に早まります。声はその人の個性であり、心と体の健康のバロメーターでもあります。日頃から喉を大切にし、自分の声と上手に付き合っていきましょう。