過敏性腸症候群(IBS)は、検査では異常が見つからないにもかかわらず、腹痛や下痢、便秘などを繰り返す慢性的な疾患です。一方、腰痛も同様に、画像検査では明確な原因が特定できない「非特異的腰痛」が多く、長期間にわたって生活の質(QOL)を低下させます。
実はこのIBSと腰痛は、別々の病気のようでいて、体の深い部分では密接につながっていると考えられています。
共通点は「自律神経」と「体質」
IBSの大きな特徴は、腸の動きが自律神経の影響を強く受ける点です。ストレスや緊張によって交感神経が優位になると、腸は過敏に反応し、下痢や腹痛、便秘を引き起こします。
一方、慢性腰痛もまた、交感神経の過緊張が関与します。交感神経が優位な状態が続くと血管が収縮し、筋肉の血流が低下します。その結果、筋肉は硬くなり、酸欠状態が続くことで痛みが慢性化していきます。
つまり、IBSと腰痛はいずれも「自律神経の乱れ」が土台にある症状といえるのです。
東洋医学でみる腸と腰の関係
東洋医学では、腰は「腎の腑」とされ、生命エネルギーの貯蔵庫である「腎」と深く関係しています。腎は成長・老化・生殖だけでなく、排泄や水分代謝、下腹部の働きとも密接です。
IBSのように下腹部の不調が続く場合、東洋医学的には腎虚(じんきょ)や、腸を支える「気・血」の不足、巡りの悪さが関係していると考えられます。
腎虚の状態
腰に重だるさや鈍痛が出やすい
下腹部が冷えやすい
便通が不安定になる
といった特徴がみられ、IBSと慢性腰痛が同時に存在するケースも少なくありません。
ストレスがつくる「脳・腸・腰」の悪循環
IBSでは「腸脳相関」という言葉が注目されています。これは、脳と腸が自律神経やホルモンを介して相互に影響し合う関係です。
強いストレスを受けると脳の働きが低下し、腸への過剰な刺激が送られ、腹痛や下痢が起こります。
同様に、慢性腰痛でもストレスは重要な因子です。脳機能が低下すると、本来は痛みを和らげるドーパミンなどの神経伝達物質が十分に分泌されず、わずかな刺激でも強い痛みとして感じてしまいます。
その結果、
ストレス → 腸の不調・腰痛 → さらにストレスが増す
という負のスパイラルが形成されてしまうのです。
鍼灸治療がIBSと腰痛の両方に有効な理由
鍼灸は、この悪循環に対して多角的に働きかける治療法です。
鍼やお灸による心地よい刺激は、自律神経の司令塔である視床下部に作用し、交感神経の過剰な緊張を抑え、副交感神経を優位に導きます。
IBSに対して
腸の過剰な動きや痙攣を抑える
腹部の血流を改善し、不快感を軽減する
不安感や緊張を和らげる
腰痛に対して
筋肉の緊張をゆるめ血流を改善する
痛みに対する脳の過敏な反応を鎮める
といった効果が期待できます。
東洋医学の基本である全身調整により、腸と腰を同時に整えることができる点が鍼灸の大きな強みです。

体質と付き合いながら整えていく
IBSも慢性腰痛も、「命に関わらないが、生活を大きく左右する」症状です。完治を目指して焦るよりも、自分の体質や傾向を理解し、無理のない形で整えていく視点が重要です。
規則正しい生活、朝の排便習慣、適度な運動、そして自律神経を整える鍼灸治療を組み合わせることで、症状は少しずつ安定していきます。
お腹と腰は、体の中心でつながっています。
腸の不調や腰痛を「別々の問題」と考えるのではなく、体全体からのサインとして向き合うことが、根本的な改善への第一歩といえるでしょう。
